はじめに:寝相はだらしなさでしょうか
朝起きたら、布団が体からはがれている。枕の位置が変わっている。家族に「よく動いていたよ」と言われる。
寝相が悪いことは、たいてい良くないこととして語られます。落ち着きがない、眠りが浅い、だらしない。
けれども、眠っているあいだの動きは、意識では作れません。誰も「寝返りを打とう」と決めて打っているわけではない。だとすれば、それは体が何らかの理由で選んでいる動きだということになります。
では、私たちは眠っているあいだ、いったい何をしているのでしょうか。
🎯 この記事で伝えたい3つのこと
1. 睡眠中の動きを分類すると、もっとも多いのは「ストレッチ」だった
2. 長時間動かずにいることが、その引き金になっている可能性が指摘されている
3. 眠っているあいだも、体は自分を整えているのかもしれない
1. 睡眠中の動きの半数がストレッチだった
睡眠医学の研究で、睡眠中の体の動きをビデオと脳波の同時記録によって分類した調査があります[1]。
対象は健常な50名(男性27名・女性23名)、年齢は20歳から70歳まで。記録された動きは合計4,057件にのぼりました[1]。
このうち、どんな種類の動きかを特定できたのが2,204件(全体の54.3%)です。そして、その2,204件を分類したところ、もっとも多かった運動パターンが判明しました。
ストレッチ(伸びをする動き)が50%、掻く動作が25%でした[1]。
つまり、パターンを特定できた睡眠中の動きの半数が、伸びをする動きだったということです。
寝返りを打ったり、体勢を変えたりしているように見えて、その多くは伸びをしていた。これはなかなか意外な結果だと思います。
2. 深く眠るほど、動きは減る
同じ研究では、動きの頻度も測られています。
1時間あたりの動きの回数(運動指数)は、中央値で11回でした[1]。そして睡眠段階ごとに見ると、次のようになります[1]。
- 浅い睡眠(N1):15回
- 中間(N2):10回
- 深い睡眠(N3):5回
- レム睡眠:15回
睡眠が深くなるほど動きは減り、レム睡眠で再び増えるという対応です[1]。
ここは読み方に注意が必要です。この結果は「動きが多いから眠りが浅くなる」ことを示したものではありません。深い睡眠では体の動きが抑制される、という順序で理解するほうが生理学的には自然です。
3. 引き金は「動かないでいること」かもしれない
では、なぜ眠っているあいだに伸びをするのでしょうか。
この研究の考察では、2つの可能性が挙げられています[1]。
ひとつは、日中と同じようにストレスを減らす働きがあるのではないかということ。
もうひとつが興味深いところで、長時間動かずにいることによって睡眠中に引き起こされる、筋骨格系にとって有益な固有感覚のフィードバック機構の結果ではないか、というものです[1]。
固有感覚とは、筋肉や腱、関節にあるセンサーが伝えてくれる、自分の体の位置や力の入り具合の感覚のことです。
つまり、こういう筋書きが考えられます。長く同じ姿勢でいると、体はその状態を感じ取り、伸びをすることで感覚を入れ直している。 そしてそれは筋骨格系にとって有益に働いている。
ただし、これはあくまで可能性として提示されているものです。確定した機序ではありません。
JINENの言葉でいうと
この知見が示しているのは、体には、意識とは無関係に自分を整える働きがあるということです。
JINENボディワークが「ゆだねる」と言ってきたのは、まさにこの働きに任せることに近いです。
眠っているあいだの動きは、ゆだねている状態の極みだと言えます。意識は完全に手を引いていて、それでも体は必要なことをしている。
私たちが起きているあいだにやっているのは、実はこの働きを邪魔しないようにすることなのかもしれません。整えるのは意識の仕事ではなく、意識にできるのは条件を整えることだけ。そう考えると、力を抜くことの意味も少し変わってきます。
もうひとつ、ここから実践的に言えることがあります。
自然に出てくる伸びを我慢しないこと。 目が覚めたときに出る伸びは、体が求めている調整の続きかもしれません。スマホに手を伸ばす前に、まず体が伸びたがっているほうへ伸びてみる。それだけで、起き抜けの体の感じが変わることがあります。
なお、私自身は「寝る前に体幹の力みを抜いておくと、夜の落ち着きが変わる」と感じています。
ただしこれは私の実感であって、体が固い人ほど睡眠中の動きが多い、といったことが研究で確かめられているわけではありません。 その点は分けて受け取っていただければと思います。
眠っているあいだも、体は働いています。まずはそのことを知っておくだけでも、自分の体への見方が少し変わるのではないでしょうか。
補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
参考文献
1. Montini A, Loddo G, Zenesini C, et al. (2024). Physiological movements during sleep in healthy adults across all ages: a video-polysomnographic analysis of non-codified movements reveals sex differences and distinct motor patterns. Sleep, 47(9), zsae138. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38912822/