【164】練習中うまくいかないほうが、身につく ― 文脈干渉効果

Aug 05, 2026

はじめに:「できた感じ」は、あてにならない

同じ動きを10回、20回と続けて練習すると、だんだんできるようになってきます。手応えがあり、気持ちがいい。今日はいい練習ができたと思える。

ところが翌週、もう一度やってみるとあの感じが消えている。

逆のこともあります。あれこれ混ぜて練習した日はうまくいかないことばかりで、手応えがない。それなのに、しばらく経ってからのほうがなぜか身についている。

この食い違いには、運動学習の研究で名前がついています。「文脈干渉効果」と呼ばれるものです。

🎯 この記事で伝えたい3つのこと
1. 練習の順序を混ぜると、練習中の成績は落ちる
2. それなのに、後日の定着と応用力は高くなる
3. 「うまくできている感じ」と「身についているか」は別のものである


1. 練習中の成績と、定着は逆に動く

運動学習の研究では、練習の組み立て方を2つに分けて考えます。

ブロック練習は、ひとつの課題をまとめて反復してから、次の課題へ移るやり方です。同じことを続けるので、順序による混乱は起きません。

ランダム練習は、複数の課題を入り混ぜて、順序を切り替えながら行うやり方です。次に何が来るか決まっていないぶん、練習は難しくなります。

この2つを比べた古典的な研究では、参加者が3つの運動課題をブロック順またはランダム順で学習しました[1]

結果はこうでした。後日の保持テストでは、ランダム練習をした群のほうが成績が良かった。 そして、別の課題への応用(転移)でもランダム練習群のほうが優れていました[1]。その差は、もっとも複雑な課題でとくにはっきりしていました[1]

練習中に感じる手応えと、実際に身についている量が、逆を向いていたわけです。


2. どのくらい確かなのか

この現象は1966年から検討されてきた、比較的長い歴史を持つテーマです[2]

2024年に発表された系統的レビューでは、1255本の文献を検索し294本の全文を精査したうえで、54本の研究を対象にメタ分析が行われました[2]

結論は、高い文脈干渉は全体として中程度の有益な効果を持ち統計的に有意だったというものです[2]

ただし、ここには重要な留保がつきます。

実験室の環境では、ランダム練習は保持を効果的に高めました。しかし応用場面ではその有益な効果はほとんど無視できるものでした[2]

つまり、きれいに条件を統制した実験では効果が出るけれど、実際のスポーツや現場に持ち込むと、効果ははっきりしなくなる。

年齢による差も報告されています。高齢者では大きな効果、成人では中程度の効果が見られた一方、若年者では効果量は無視できる程度で統計的に有意ではありませんでした[2]

ですから、「順序を混ぜれば必ず上達する」という単純な話ではありません。条件によって効き方が変わるというのが、現時点での正確な理解です。


3. それでも、この知見が役に立つ理由

効果の大きさに議論があるとしても、この研究群が突きつけている問いは残ります。

私たちは、練習中の手応えを頼りに、練習の良し悪しを判断していないだろうか。

同じことを繰り返せば、その場の成績は上がります。上がればうまくいっている気がします。だから私たちは繰り返しを好みます。

しかし、そのとき上がっているのは「今この場でできる度合い」であって、「後日に残る度合い」ではないかもしれません。少なくとも、その2つは自動的には一致しないということを、この分野の研究は示してきました。

これは、練習の設計に対する見方を変えます。練習中に苦戦していることは、必ずしも失敗のサインではないわけです。


JINENの言葉でいうと

JINENボディワークで「毎回、感じながら」とお伝えしてきたことと、この知見は同じ方向を向いています。

同じ動きを何十回繰り返しても、そのあいだ何も感じていなければ、体は「今できていること」をなぞっているだけかもしれません。手応えは出ます。でも、それは今日のうちに消えてしまうものかもしれない。

一方、条件が毎回わずかに変わると、そのたびに体は感じ直す必要が出てきます。うまくいかない感じが増えます。その「うまくいかなさ」が、感じ直しの入口になっています。

武道で例えると、相手が変わる、間合いが変わる、道具の重さが変わる。そのたびに「あれ、いつもと違う」となります。この違和感は、練習が失敗しているのではなく較正が起きているサインだと捉え直すことができます。

これはスポーツでも同じはずです。いつもと違うコート、違うボール、違う相手。あるいは日常でも、違う靴、違う床、違う荷物。条件が変われば、体は毎回考え直します。

ここから、実践として言えることが2つあります。

ひとつは、「できている感じ」を練習の評価基準にしすぎないこと。気持ちよくできた日が、いちばん身についた日とはかぎりません。

もうひとつは、苦戦を早々に避けないこと。うまくいかないから条件を易しくする、という判断はときに定着の機会を減らしています。

ただし、これは「難しくすればするほどいい」という話ではありません。実験室と現場で結果が割れているという事実は、やみくもに混ぜても効かないことを示しています。基礎を身につける段階では、まとめて反復することにも意味があります。

大事なのは、手応えと定着は別物だと知ったうえで、練習を組み立てられることだと私は考えています。今日の自分は、どちらを取りにいっているのか。それが分かっているだけで、練習の質は変わってきます。


補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。


参考文献

  1. Shea JB, Morgan RL (1979). Contextual interference effects on the acquisition, retention, and transfer of a motor skill. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 5(2), 179–187. https://eric.ed.gov/?id=EJ215260

  2. Czyż SH, Wójcik AM, Solarská P, Kiper P (2024). High contextual interference improves retention in motor learning: systematic review and meta-analysis. Scientific Reports, 14(1), 15974. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38987617/

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