【162】「意識するほど下手になる」の科学 ― 外的焦点と内的焦点

Aug 05, 2026

はじめに:うまくやろうとするほど、ぎこちなくなる

「肩の力を抜いてください」と言われて、肩に意識を向ける。すると、かえって肩に力が入る。

階段を降りているとき、ふと「自分はどうやって足を運んでいるんだろう」と考えた瞬間、足取りがぎこちなくなる。

こうした経験は、集中力が足りないからでも、練習が足りないからでもありません。運動制御の研究は、注意をどこに向けるかによって、同じ人の同じ動作の質が変わることを繰り返し示してきました。

問題は、注意の量ではなく向け先にあります。

🎯 この記事で伝えたい3つのこと
1. 注意の向け先には「内」と「外」の2種類がある
2. 自分の体の動きより、動きの効果や環境に注意を向けるほうが、動作は安定しやすい
3. ただし「常に外」が正解ではない。順番がある


1. 内に向けるか、外に向けるか

運動制御の分野では、注意の向け先を2つに分けて考えます。

内的焦点は、自分の体そのものに注意を向けることです。「肩の位置」「手首の角度」「膝の曲げ具合」。自分の体がどう動いているかを追いかける状態です。

外的焦点は、動きがもたらす効果や、道具・環境の側に注意を向けることです。「ボールの飛ぶ先」「足元の板の傾き」「触れている床」。体の外側で起きていることに注意を向ける状態です。

同じ動作をしていても、この2つはまったく違う状態です。

運動制御の研究では、バランスを取る装置(左右に傾く板の上で姿勢を保つ課題)を使って、この2つを比較した実験が行われています[1]。参加者を、自分の足の動きに注意を向ける群と、足を乗せている板の動きに注意を向ける群に分けます。

結果は、外側(板)に注意を向けた群のほうが、姿勢の誤差が小さかったというものでした[1]

体の動かし方を意識していないほうが、うまく動けている。直感に反する結果です。


2. 「ちゃんとやろう」が邪魔をしている

この結果が示しているのは、動きが硬くなる原因が努力不足ではないということです。

むしろ逆で、「ちゃんとやろう」として自分の体に意識を集中させることが、動きを硬くしている可能性がある。私たちが良かれと思ってやっている「意識して動く」ことが、動きの質を下げているのです。

ただし、ここは慎重に受け取る必要があります。

この実験で使われたのはバランス課題です。

すべての運動、すべての場面で「外に注意を向ければうまくいく」と一般化できるわけではありません。学習の段階や課題の種類によって話は変わってきます。

それでも、「自分の体を細かく操作しようとするほど、動きがぎこちなくなる場面がある」という事実は、身体を扱ううえで知っておく価値があります。


JINENの言葉でいうと

JINENボディワークの指導が「肩をこう動かして」ではなく、「床を感じてください」「そこに触れている感じを味わってください」という形をとるのは、この知見と同じ考え方です。

床、道具、触れている面。これらはすべて体の外側にあります。そこへ注意を向けることは、そのまま外的焦点になります。

エクスターナル・フォーカス」はJINENボディワークの指導法の一部として、以前から組み込んでいます。動きを内側から操作するのではなく、外との関係を感じることで、動きが整っていく。

もうひとつ、軽集中という考え方も関わってきます。「しっかり感じよう」と100パーセントの力で注意を向けると緊張を生みます。

50〜70パーセントくらいの、うっすらとした注意の向け方がちょうどいい。強く集中することと、注意を向けることは違います。

ただし、「常に外に向ければいい」わけではありません。

これは大事な点です。JINENでは「わける」という段階を重視しています。自分の体のどこがどう動いているのか、どこに力みがあるのか。それを感じ分けられるようになるには、内側に注意を向ける時間がどうしても必要です。痛みの識別も、部位の分化も、内側を感じることから始まります。

ですから、順番はこう考えるのが正確だと私は考えています。

内側を感じて体の部品を把握する段階 → 外側の接点・環境へ注意を開いて、全体を統合する段階

この行ったり来たりが大事です。

内側を飛ばして外側だけを見ても、感じ分ける力は育ちません。逆に、内側を見続けたままでは、動きは統合されません。両方に段階として意味があります。

いま自分がどちらの段階にいるのか。それを分かったうえで注意を向けられると、練習の効率は大きく変わってきます。


補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。


参考文献

  1. Wulf G, McNevin N, Shea CH (2001). The automaticity of complex motor skill learning as a function of attentional focus. Quarterly Journal of Experimental Psychology A, 54(4), 1143–1154. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11765737/

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