【156】スマホは「あるだけ」で集中を奪う ― デジタルと脳のほんとうの話

Jul 10, 2026

はじめに:便利さの裏で、削られているもの

スマートフォンは生活を大きく便利にしました。その一方で、「集中が続かない」「気づくと画面を触っている」「考えが落ち着かない」という感覚をもつ人も増えています。

この記事では、デジタルデバイスが脳のはたらき、とりわけ注意・報酬・思考の落ち着きに与える影響を、研究に基づいて整理します。はじめに大切なことを述べます。この分野は「スマホが脳を壊す」とセンセーショナルに語られがちですが、研究の多くは関連を示す相関研究で、因果を強く断定できるものは限られています[1]。その慎重さを保ちながら見ていきます。

🎯 この記事で伝えたい3つのこと

  1. 通知や同時使用の多い環境は、注意を断片化させやすい
  2. スマホは「持っているだけ」で注意の資源を削りうる
  3. 「意志で我慢する」より、環境を整えるほうが確実

1. 注意は、断片化しやすい

デジタル環境の特徴は、通知やアプリの同時使用によって、注意が絶えず中断され、分割されることです。スマートフォンと認知に関するレビューでは、日常的に多くのメディアを同時使用する人ほど、無関係な刺激を排除する力が弱く、作業の切り替えのコストが大きい傾向が報告されています[1]。頻繁な同時使用が、ワーキングメモリの成績の低下や注意の衝動性の高まりと関連する、という報告もあります[1]

ただし、このレビューは重要な注意を促しています。これらの多くは相関研究であり、「スマホが集中力を下げた」のか「もともと衝動性の高い人がスマホを多用する」のか、原因と結果の向きは確定できないというのです[1]。ここは誠実に押さえておく必要があります。

2. 「持っているだけ」で削られる

興味深いのは、能動的に使っていなくても、スマホがそこに「ある」だけで注意の資源が削られる可能性です。ある実験では、電源を切って画面を伏せたスマホを机に置いた場合と、別室に置いた場合を比べたところ、スマホが存在するだけで集中力の成績が有意に低下しました[2]。これは、従来「複雑な作業のときだけ影響する」とされてきた効果が、基礎的な注意の段階でも生じうることを示しています[2]

同様に、「自分のスマホが近くにあるだけで、使える認知の容量が下がり、その効果はスマホを別室に置いたときに最も小さくなる」という研究も知られています[3]。スマホの存在は、それを「見ないでおこう」と我慢すること自体に、注意の資源を使わせている可能性が指摘されています[3]

なお、「やめようと思っても手が伸びる」背景には、報酬の仕組みも関わっています。「いいね」や通知は、いつ来るか予測できない不規則なタイミングで届きます。行動科学では、報酬のパターンが読めないときに、その行動が最も強く維持されることが知られており、こうした設計が手を伸ばさせやすくしている、と考えられています[4]。「意志が弱いから」ではなく、そもそも意志が働きにくい設計になっている、と理解することが出発点になります。

JINENの言葉でいうと

以上を踏まえると、デジタルとの付き合い方は「意志で我慢する」だけでは成立しにくいことがわかります。JINENボディワークの発想は、ここに現実的な手立てを与えます。

まず、環境を整えることです。「持っているだけ」で注意が削られるのなら、作業中はスマホを別室に置く・視界から外すことが、意志の消耗を減らす最も確実な方法です[2][3]。これはJINENの「余計なものを差し引く(マイナスのアプローチ)」の、情報環境版といえます。

次に、エクスターナルフォーカスと軽集中です。画面に吸い寄せられた狭く固い注意から、いったん体の外の空間・呼吸・足裏の感覚へと注意をひらくことは、断片化した注意を落ち着かせる助けになります。JINENの軽集中は、注意を一点に縛らず、ゆるやかに全体へ配る使い方であり、過剰な刺激から距離をとる実践になりえます。

そして、体から神経系を整えることです。常に通知に備える「常時警戒」は、心身を休息のモードから遠ざけます。ゆっくりした呼吸や、床に身を預ける感覚など、安心のモード(腹側迷走神経系)を立ち上げる身体的な入力を足していくことが、デジタルによる高ぶりに対する調律になります。

補足 この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。本記事は「スマホ依存症」などの診断・治療を論じるものではなく、注意・報酬・自律神経の一般的な仕組みを扱っています。エビデンスは最新の研究によって覆される場合もあります。学習や実践の参考程度にしてください。

参考文献

  1. Wilmer HH, Sherman LE, Chein JM (2017). Smartphones and Cognition: A Review of Research Exploring the Links between Mobile Technology Habits and Cognitive Functioning. Frontiers in Psychology, 8, 605. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5403814/

  2. Skowronek J, Seifert A, Lindberg S (2023). The mere presence of a smartphone reduces basal attentional performance. Scientific Reports, 13, 9363. https://www.nature.com/articles/s41598-023-36256-4

  3. Ward AF, Duke K, Gneezy A, Bos MW (2017). Brain Drain: The Mere Presence of One's Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity. Journal of the Association for Consumer Research, 2(2), 140–154. https://www.journals.uchicago.edu/doi/full/10.1086/691462

  4. 変動比率強化・ドーパミン報酬とSNS設計に関する知見。Veissière SPL, Stendel M (2018). Hypernatural Monitoring: A Social Rehearsal Account of Smartphone Addiction. Frontiers in Psychology, 9, 141. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5826267/

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