「感覚はあるのに体がうまく使えない」
目は見えている。耳も聞こえている。触れれば感じる。それなのに、体がうまく動かない。バランスが悪い。不器用。何かに触られると過剰に反応してしまう。逆に、痛みに鈍感で怪我に気づかない。
これらは、個々の感覚器官の問題ではなく、脳が複数の感覚情報を「統合」する段階の問題である可能性があります。
感覚統合:バラバラな情報を「一つの体験」に組み上げる
「感覚統合(Sensory Integration)」とは、脳が触覚・固有受容覚・前庭覚・視覚・聴覚など複数の感覚情報を整理し、統合して、適切な行動のために「使える」状態にするプロセスです。
この概念を体系化した研究から、感覚統合は「感覚を使うための組織化」であり、特に触覚・前庭覚・固有受容覚の3つの「隠れた感覚」の統合が、すべての学習と行動の基盤であることが示されています [1]。
たとえば、歩くという一見シンプルな動作でも:
- 前庭覚:頭の位置と重力の方向を検出する
- 固有受容覚:関節・筋肉の位置と力を感じ取る
- 足裏の触覚:地面の硬さ、傾斜、質感を検出する
- 視覚:前方の空間と障害物を把握する
これらがすべて統合されて初めて「歩行」という行為が成立します。統合がうまくいっていないと、個々の感覚は正常でも、それらを組み合わせた「全身としての動き」がぎこちなくなります。
感覚統合の不全はなぜ起きるのか
感覚統合の研究の発展の中で、以下のような感覚処理の問題が体系化されてきました [2]。
① 感覚過敏(過剰登録)
刺激に対する閾値が低すぎる。小さな刺激でも大きく反応してしまう。タグが気になる、特定の音が耐えられない、触られると過剰に防衛する、など。
② 感覚鈍麻(過少登録)
刺激に対する閾値が高すぎる。強い刺激でないと感じ取れない。痛みに鈍い、温度変化に気づきにくい、力加減ができない、など。
③ 感覚統合の困難
個々の感覚は正常に機能しているが、複数の感覚を同時に処理・統合するプロセスに問題がある。バランスが悪い、動きがぎこちない、新しい運動が覚えにくい、など。
これらは子どもだけの問題ではありません。大人でも、慢性的なストレスや身体的な不活動により、感覚統合の機能は低下することがあると臨床的に報告されています [3]。
JINENが「感覚の解像度を上げる」理由
JINENボディワークの多くのワークが「感じること」を重視する理由は、この感覚統合の概念に基づいています。
- 足裏のワーク(014参照):触覚と固有受容覚の入力を増やし、脳への感覚情報の質を上げる
- 前庭覚のワーク(023参照):頭の位置変化を伴うゆっくりとした動きで、前庭系の統合を促進する
- スローモーション(029参照):ゆっくり動くことで、固有受容覚と視覚の統合を丁寧に行う時間を脳に与える
- 目を閉じるワーク:視覚を遮断し、他の感覚(前庭覚・固有受容覚・触覚)の情報処理を強制的に活性化する
「感じることが動くこと」。 JINENが座学やフォーム練習ではなく、「感覚の体験」を重視するのは、感覚統合の土台なしには、いかなる運動スキルも本質的には向上しないからです。
参考文献
補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
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Ayres, A. J. (1979). Sensory Integration and the Child. Western Psychological Services.↩︎
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Ayres, A. J. (1972). Sensory Integration and Learning Disorders. Western Psychological Services.↩︎
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Goddard Blythe, S. (2009). Attention, Balance and Coordination: The A.B.C. of Learning Success. Wiley-Blackwell.↩︎