「自分は正しい」の安心感
「あの人は間違っている」「自分のやり方が正しい」「こうすべきだ」
こうした「正しさへの確信」は、心に安定をもたらします。自分が正しいと思えている間は不安を感じなくて済む。ところが、この確信が強すぎると、人間関係が壊れたり、新しい情報を受け入れられなくなったり、心身ともに苦しくなっていきます。
なぜ人はこれほどまでに「正しさ」にしがみつくのでしょうか。そこには、身体の防衛反応が関わっている可能性があると私は考えています。
「正しさ」は脅威への防衛反応かもしれない
007の記事で解説した「ニューロセプション」、無意識の安全レーダー、を思い出してください。
神経系が「安全」を感じているとき、人は他者の意見を取り入れる余裕があり、自分の間違いを認められ、曖昧さ(グレーゾーン)に耐えられます。
しかし、神経系が「脅威」を感じているとき、状況は一変します 1。確実性への渇望が高まり(曖昧さが耐えられない)、二項対立的な判断に傾き(066参照)、自分の立場を守ることが生存の問題になります。
つまり、「正しさへの固執」は、防衛モードにある神経系が、確実性(=安全感)を求めて取る認知的な防衛戦略として理解できるかもしれません。
不確実性とストレス反応
不確実性が脳のストレス応答を活性化するメカニズムを調べた研究から、人間の脳は「わからない状態」を脅威として処理する傾向があることが報告されています 2。
不確実性の高い状況では扁桃体が活性化し(009参照)、コルチゾール(ストレスホルモン)が上昇し、前頭前皮質の柔軟な判断力が低下します(050参照)。
この状態で、「自分は正しい」という確信は不確実性を排除する最も簡単な方法です。正しい/間違いの判断をすれば、曖昧さが消え、脳は「解決済み」として処理できます。
しかし、その代償として新しい情報を無視するようになり、他者の視点を脅威として排除し、自分と異なる意見の人との関係が壊れていきます。
体の防衛モードが「正義感」を強化する
066の記事と同じ構造がここにもあります。
- 体が防衛モードにある(交感神経優位、筋緊張、過覚醒)
- → 脳が「脅威を排除したい」モードになる
- → 認知が白黒化し、「正しさ」に固執する
- → 正しさを脅かす情報や人物が「敵」に見える
- → さらに防衛モードが強化される
この悪循環は、体の状態を変えない限り、認知だけでは断ち切りにくいと私は感じています。
JINENの視点:安全を感じれば「正しさ」を手放せる
JINENボディワークは、「正しさ」を手放すことを説教しません。その代わり、体のレベルで安全モードを回復させることで、「正しさにしがみつかなくても大丈夫」という神経系の状態を作ることを目指します。
- 安全な場の提供(038参照):「判断されない空間」を体験することで、ニューロセプションが安全に設定される
- 迷走神経の活性化(010参照):安全モード(腹側迷走神経優位)では、曖昧さへの耐性が自然と上がる
- グループワーク:他者と一緒に体を動かし、「自分と違う人がいても安全だ」を体で体験する
- 「正解のない動き」(028参照):UCM仮説で解説したように、動きに「唯一の正解」はない。この体験が、「正解はひとつじゃない」という感覚を神経系に刻む可能性がある
安全を感じている人は、「正しくなくても大丈夫」と思える。 正しさへの依存は、体の不安の裏返しなのかもしれません。
補足 この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
参考文献
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Porges, S. W. (2011). The Polyvagal Theory. W. W. Norton. ↩
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de Berker, A. O. et al. (2016). Computations of uncertainty mediate acute stress responses in humans. Nature Communications, 7, 10996. ↩
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Arnsten, A. F. T. (2009). Stress signalling pathways that impair prefrontal cortex structure and function. Nature Reviews Neuroscience, 10(6), 410–422. ↩