頭の中の「終わらない会議」
夜、布団に入ると明日の予定がぐるぐる回る。過去の失敗を何度も思い返す。まだ起きていない未来の不安が頭を占拠する。
この「自動思考」「反すう(rumination)」は、止めようと思って止められるものではありません。止めようとすればするほど、かえって思考は活性化します。
しかし、体を通じたアプローチなら、この「ぐるぐる」を間接的に鎮めることができる可能性があります。
デフォルトモードネットワーク(DMN)の暴走
004の記事で紹介したデフォルトモードネットワーク(DMN)は、外部の課題に集中していないとき、つまり「ぼーっとしているとき」、に活性化する脳のネットワークです。
DMNは本来、記憶の整理、自己省察、創造的な発想に関わる生産的なシステムです。しかし、反すう(ぐるぐる思考)と抑うつの関係を調べた研究から、DMNの過活動が反すう思考と強く結びついていることが示されています [1]。
ぐるぐる思考の正体は、DMNが「暴走」し、自己参照的な思考を止められなくなっている状態と理解できます。
なぜ「考えるな」で止まらないのか
「考えすぎないようにしよう」→ これは前頭前皮質(認知的コントロール)からの抑制の試み。しかし:
- DMNは前頭前皮質の制御とは別系統で活動している
- 050で解説したように、ストレス下では前頭前皮質の機能自体が低下する [2]
- 「考えないように考える」こと自体が、DMNをさらに活性化させてしまう
つまり、思考を思考で止めることは、構造的に困難なのです。
体が「ぐるぐる」を止める理由
ここでJINENの「体からのアプローチ」の意義が浮かび上がります。
① 外受容感覚への注意シフト
足裏の感覚に注意を向ける(014参照)。呼吸を感じる(010参照)。これらの行為は、注意を内的な自己参照(DMN)から外的な感覚入力へと切り替えます。DMNは、外部課題に注意が向くと自動的に活動が低下することがわかっています。
② 運動によるDMNの鎮静化
049の記事で歩行と創造性の関係を解説しましたが、歩行のような適度な運動はDMNの暴走を鎮静化し、より創造的な(反すう的でない)モードに切り替える効果が示唆されています。
③ 呼吸による迷走神経ブレーキ
ぐるぐる思考は交感神経の過活動を伴っていることが多い。010の記事で解説した呼吸法で迷走神経ブレーキを踏むことで、自律神経の状態を変え、間接的に思考パターンにも影響を与えられる可能性があります。
④ 内受容感覚の精度向上
012の記事で解説した内受容感覚が鈍い人ほど、体の信号を無視して「頭だけで生きる」傾向が強くなり、ぐるぐる思考に陥りやすいと私は考えています。体の感覚を取り戻すことは、「頭の中に閉じ込められた状態」から抜け出す具体的な方法です。
JINENの「頭を止める」ワーク
JINENボディワークでは、「考えないようにする」のではなく、「体の方に注意を引っ越しさせる」というアプローチを取ります。
- 足裏のグラウンディング(014参照):立った状態で足裏の感覚に集中する。「今、ここ」に注意を引き戻す最もシンプルな方法
- 呼吸カウント(010参照):吐く息を数えることで、脳に「外部課題」を与え、DMNの暴走にブレーキをかける
- ゆっくり歩く(049参照):スローウォーキングは「意識的な運動課題」であり、DMNを鎮静化する
- 体揺すり:立った状態で体をゆっくり左右に揺する。リズミカルな前庭刺激が脳の覚醒レベルを調整する
頭で考えても「ぐるぐる」は止まらない。体を使って、脳の回路を切り替える。 これが身体的アプローチの強みです。
補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
参考文献