「首を揉んでも良くならない頭痛」
慢性的な頭痛に悩む人は少なくありません。肩や首をマッサージしてもらうと一時的に楽になるけれど、翌日にはまた戻っている。
もしかすると、首だけを見ていては解決しないかもしれません。目と首は、神経系レベルで深く連動しているからです。
前方頭位姿勢(FHP)と頸椎の負荷
スマートフォンやパソコンの長時間使用で増えている「前方頭位姿勢」、頭が肩より前に突き出た状態、は、頸椎に大きな力学的負荷をかけることが報告されています [1]。
人間の頭は約4〜5kgあります。頭が背骨の真上に乗っているときは、頸椎にかかる負荷はこの重さだけです。しかし、頭が前に出れば出るほど、てこの原理により頸椎にかかる力は倍増します。
- 15度前傾で約12kg
- 30度前傾で約18kg
- 45度前傾で約22kg
この過剰な負荷に対抗するために、首の筋肉(特に後頭下筋群)が慢性的に緊張し、これが首こり・肩こり・緊張型頭痛の一因になると考えられています。
目と首の「反射的な連動」
ここで重要なのが、目と首は反射レベルで連動しているという事実です。
034の記事で解説した非対称性緊張性頸反射(ATNR)に加え、眼球-頸部反射と呼ばれる運動連関があります。目を右に向ければ首も右を向く。下を見れば首も下に曲がる。
長時間のデスクワークやスマホ使用では、目が固定された状態が続きます。すると:
- 外眼筋が疲労し、眼球運動の柔軟性が低下する
- 眼球運動の制限に連動して、頸部の可動域も減少する
- 頸部の固定化は、前庭覚(023参照)への入力も減少させる
つまり、目の疲れ→首の固着→前庭覚の低下→さらなる過緊張という悪循環の可能性があります。
頸椎の緊張が自律神経に影響する
さらに、頸部は自律神経の重要な通り道です。迷走神経は頸部を通過しており(006参照)、頸部の慢性的な筋緊張は迷走神経の物理的なストレスにもなりうると私は考えています。
頸部の筋群の機能障害と慢性的な首痛の関係を調べた研究でも、深層の頸部屈筋の機能低下が首の痛みの慢性化と関連することが示されています [2]。表面の大きな筋肉(僧帽筋など)が過活動し、深層の安定化筋が弱くなるというパターンは、まさに045(末端優位から中心優位へ)で解説した代償パターンの首版です。
JINENのアプローチ
JINENボディワークでは、頭痛・首こりに対して「首だけ」を見るのではなく、目-首-前庭覚の連動システム全体にアプローチします。
- 目のワーク:ゆっくりとした眼球運動(上下左右、円を描く)で外眼筋をほぐし、眼球-頸部の連動を回復させる
- 頸椎のスローモーション(029参照):首を極端にゆっくり動かすことで、深層の安定化筋を再活性化する
- 前庭覚の刺激(023参照):首が固まると前庭覚が機能低下する。前庭覚のワークで「頭の位置のセンサー」を回復させる
- スマホ休憩のルール化:20分ごとに20秒間、20フィート(約6m)先を見る「20-20-20ルール」を推奨
首を揉む前に、目を動かしてみる。 意外に思われるかもしれませんが、経験的にも、目のワークだけで首の緊張が大幅にゆるむケースは少なくありません。
補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
参考文献
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Hansraj, K. K. (2014). Assessment of stresses in the cervical spine caused by posture and position of the head. Surgical Technology International, 25, 277–279.↩︎
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Falla, D. et al. (2007). Patients with chronic neck pain demonstrate altered patterns of muscle activation during performance of a functional upper limb task. Spine, 32(17), E460–E466.↩︎