「どこも悪くないですよ」と言われる苦しさ
頭が重い。体がだるい。首や肩がこる。胃がもたれる。眠れない。集中できない。
病院で検査しても異常は見つからない。「ストレスですね」「自律神経の乱れでしょう」と言われて終わりになる。いわゆる「不定愁訴」です。
本人にとっては確かにつらいのに、「原因不明」と片付けられてしまう。しかし近年の研究は、これらの症状には明確な神経生理学的メカニズムが存在することを示しています。
中枢性感作:脳が「ボリュームを上げすぎている」
本来なら痛みを感じないはずの刺激でも痛みを感じる。光や音が以前より気になる。疲れやすい。体のあちこちに不調が出る。
こうした多症状が重なる状態を統合的に説明する概念として、「中枢性感作」があります。
中枢性感作と関連症候群の研究から、線維筋痛症、慢性疲労症候群、過敏性腸症候群などの一連の症候群は、中枢神経系の過剰興奮、すなわち脳と脊髄が「ボリュームを上げすぎている」状態、を共通のメカニズムとして持つことが提唱されています [1]。
オーディオ機器の比喩で言えば:
- 正常な状態:環境からの信号を適切な音量で処理する
- 中枢性感作:アンプのゲインが上がりすぎて、小さな信号も大音量で再生される
この結果、通常なら気にならない体の感覚(心拍、消化の動き、筋肉のわずかな緊張)が「不快」や「痛み」として増幅されて意識に上るのです。
015の記事の延長線上にある
015の記事で「痛みは脳の出力である」と解説しましたが、不定愁訴はまさにその応用例です。
痛みの発生メカニズムの研究でも、中枢性感作が起きると、脊髄のニューロンが過敏になり、通常は痛みを引き起こさない触覚や温度の情報すら「痛み信号」に変換されてしまうことが示されています [2]。
不定愁訴の多くは、体の末端の問題ではなく、脳と脊髄の「処理の過敏さ」が作り出している症状である可能性があるのです。
なぜ中枢性感作が起きるのか
中枢性感作を引き起こす要因として、以下が関与していると考えられます。
- 慢性的なストレス:アロスタティック負荷(050参照)の蓄積
- 睡眠不足:脳のグリア細胞の修復機能低下
- 運動不足:047(座りっぱなし)で解説した代謝の低下と感覚入力の枯渇
- 原始反射の残存:032(モロー反射)による慢性的な交感神経の過活動
- 感覚統合の不全:036(感覚統合)で解説した多感覚処理の問題
JINENのアプローチ
JINENボディワークは、不定愁訴を「気のせい」として片付けません。中枢神経系のボリュームを下げるアプローチにもなっています。
JINENの指導体系では、インストラクターはクライアントの「症状(言葉)」を「神経のモード(状態)」に脳内で翻訳する考え方を学びます。
たとえば:
- 「頭が重い、肩がこる、眠れない」→ 交感神経が暴走しているモード
- 「だるい、やる気がない、体が動かない」→ 背側迷走神経のシャットダウンモード
- 「あちこち痛い、検査しても異常なし」→ 中枢性感作によるボリューム増幅である可能性
このように「翻訳」できたとき、アプローチの方向性が見えてきます。
これは私の経験にもとづく解説ですが、中枢性感作に関連する不調は脳の警報システムが感度を上げすぎて、普通の信号を脅威として処理している状態といえるのではないかと思います。JINENのワークは、柔らかな刺激やゆっくりの制御を通じて、神経系の感度を少しずつ正常に戻していく作業であるため、改善につながるかもしれません。
少なくとも「原因がある」「ケアの選択肢がある」という安全感は、それ自体がボリュームを下げる信号になり得ます(019参照)。
ワークとしては、まず環境を整え、仰向けでの呼吸法(010参照)や迷走神経の刺激から穏やかに始めます。中枢性感作がある人は感覚入力にも過敏なため、刺激の「量」を慎重にコントロールすること(ドーシング)が欠かせません。
「原因不明」ではない。脳のボリュームが上がりすぎている。
この理解が広まるだけでも、不定愁訴に苦しむ多くの方の助けになるのではないでしょうか。
補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
参考文献
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Yunus, M. B. (2008). Central sensitivity syndromes: A new paradigm and group nosology for fibromyalgia and overlapping conditions. Seminars in Arthritis and Rheumatism, 37(6), 339–352.↩︎
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Woolf, C. J. (2011). Central sensitization: Implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain, 152(3 Suppl), S2–S15.↩︎