「座っている」は「休んでいる」ではない
デスクワークで1日8時間座る。通勤の電車で座る。帰宅してソファに座る。私たちの生活は、1日の大半を「座位」で過ごすようになりました。
「運動不足は体に悪い」それは誰もが知っています。しかし近年の研究が明らかにしたのは、もっと衝撃的な事実です。たとえ毎日ジムで運動しても、座っている時間が長ければ健康リスクは下がらない。
つまり、「座っていること」自体が独立したリスク因子なのです。
座りすぎの生理学
座位の健康リスクの研究から、長時間の座位は運動不足とは独立した代謝リスクであり、以下の生理的変化を引き起こすことが報告されています [1]。
① リポタンパク質リパーゼの抑制
座位が続くと、脂肪を分解する酵素(LPL)の活性が急落します。立っているだけでLPLは活性化されますが、座ると数時間以内に機能が低下し、血中の中性脂肪と血糖値が上昇します。
② 代謝の「床割れ」
座位は体を「代謝の床」以下に落とします。立位や軽い歩行でも筋肉はわずかに活動していますが、座位ではその微細な筋活動すら消失し、代謝機能が最低水準に落ちます。
③ 全身の筋肉の不活性化
座位では、抗重力筋(脊柱起立筋群、大臀筋など)が機能的に「オフ」になります。これは030(チキソトロピー)で解説した筋膜の固着も促進します。
座りっぱなしとJINENの理論体系
JINENの視点から見ると、座りっぱなしの問題は代謝リスクだけではありません。
前庭覚の絶望的な刺激不足(023参照)
座位では頭の位置がほとんど変わりません。前庭系への入力がほぼゼロになり、重力センサーの感度が低下します。
固有受容覚の情報枯渇(013参照)
関節も筋肉もほぼ動かないため、固有受容覚からの入力も最小になります。ボディマップ(011参照)は、使われない領域から「ぼやけて」いきます。
自律神経の偏り
動くことは交感神経と副交感神経の両方を適切に刺激します。動かないことは、この自律神経の「振れ幅」を狭めます。HRV(008参照)の低下にもつながります。
座位時間と精神的健康の関連を調べた大規模調査でも、座りすぎの人はうつや不安のリスクが高いことが示されています [2]。
「ちょこちょこ動く」の科学
研究が示す最も効果的な対策は、「まとまった運動」よりも「座りっぱなしを頻繁に中断する」ことです。
30分に1回、1〜2分立ち上がって歩くだけで、LPLの活性は回復し、血糖値のスパイクは緩和されます [1-1]。
JINENの発想では、さらに質を上げられます。
- 立ち上がって身体揺すり:足踏みや体揺すりで固有受容覚と前庭覚を同時に刺激する
- 背骨の回旋:座ったままでも背骨をゆっくりねじれば、チキソトロピーの解除(030参照)と脊柱エンジン(026参照)の活性化が可能
- 足裏の刺激:靴を脱いで足指を動かす。014(足裏のセンサー)を再活性化
- 深呼吸3回:呼吸で迷走神経ブレーキを踏む(010参照)
ジムに行くことより、座り続けないことのほうが大事かもしれない。
「動物」という漢字は「動く物」と書きます。人間は座るようにはデザインされていないのです。
補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
参考文献
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Hamilton, M. T. et al. (2007). Role of low energy expenditure and sitting in obesity, metabolic syndrome, type 2 diabetes, and cardiovascular disease. Diabetes, 56(11), 2655–2667.↩︎↩︎
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Biswas, A. et al. (2015). Sedentary time and its association with risk for disease incidence, mortality, and hospitalization in adults. Annals of Internal Medicine, 162(2), 123–132.↩︎