【031】大人に残る原始反射 ― 猫背やいかり肩の本当の原因

Mar 31, 2026

「姿勢のクセ」は実は反射かもしれない

猫背がどうしても治らない。肩がいつも上がっている。首が前に突き出る。

こうした「姿勢のクセ」に対して、多くの人は「筋力が足りない」「意識が足りない」と思っています。しかし、何年も筋トレやストレッチを続けても改善しないケースが少なくありません。

その理由のひとつとして考えられるのが、大人になっても残っている「原始反射」の影響です。

なお、大人における原始反射の残存と姿勢の関係は、主に臨床的な観察と実践から生まれた枠組みであり、主流の神経学で完全に確立された概念というわけではありません。しかし、多くの臨床家やボディワーカーがその有用性を報告しており、JINENでも現場での実感と照らし合わせて参考にしている理論です。

原始反射とは

原始反射とは、胎児期から乳児期にかけて脳幹レベルで自動的に発動する、生存のための運動パターンです。

小児神経学の包括的レビューから、原始反射は特定の感覚刺激に対して誘発される定型的な不随意運動であり、新生児の生存に不可欠な役割を果たすことが体系的にまとめられています [1]。代表的なものには、モロー反射(音や落下の刺激で両手を大きく広げる)、把握反射(手のひらに触れたものを強く握る)、非対称性緊張性頸反射(ATNR:頭を横に向けると同じ側の手足が伸びる)などがあります。

これらの反射は、脳の成熟に伴い通常は生後6〜12ヶ月で「統合」(抑制)されます。大脳皮質が発達し、より高度な随意運動(意思によるコントロール)へと置き換わるのです。

原始反射が「残る」とどうなるか

問題は、この統合が不完全なまま大人になるケースです。

神経生理学的発達の臨床研究から、原始反射の残存は中枢神経系の成熟の遅れを示す指標であり、姿勢制御、バランス、協調運動、さらには感情調整や学習にまで影響を及ぼしうることが報告されています [2]

原始反射の残存が姿勢に与える影響の具体例:

残存する反射 姿勢への影響
モロー反射 肩が上がりやすい(いかり肩)、驚きやすい、首の過緊張
ATNR 頭を片側に向けると同側の腕が伸び、体の左右バランスが崩れる
緊張性迷路反射(TLR) 前方TLR→猫背(屈曲パターン)、後方TLR→反り腰(伸展パターン)

小児期における原始反射の残存を定量的に評価するツール(原始反射プロファイル)の研究でも、これらの反射が予定された時期に統合されないことが運動機能の障害と関連することが実証されています [3]

なぜ「統合」が不完全になるのか

原始反射の統合が不完全になる原因は、完全には解明されていませんが、以下の要因が指摘されています。

  • 出生時のストレス(帝王切開、早産、酸素不足など)
  • 乳児期の運動経験の不足(うつ伏せの時間が少ない、ハイハイの期間が短いなど)
  • 慢性的なストレス(不安・恐怖により、原始反射が再活性化する場合がある)

特に3番目は重要です。009の記事で解説した「扁桃体→網様体→筋緊張」の回路は、原始反射の回路と密接に関連しています。慢性的な不安やストレスは、すでに統合されたはずの原始反射を「再活性化」させてしまう可能性があるのです。

JINENの原始反射へのアプローチ

JINENボディワークでは、原始反射の残存を「筋力不足」として扱うのではなく、「統合されていない発達プログラム」として扱い、再統合を促すアプローチを取ります。

  • 発達の階層をたどり返す(001参照):仰向け→うつ伏せ→這う→四つ這い→立つ、この順番で体を動かすことで、原始反射の統合を発達順序に沿って再促進する
  • 神経系を安全モードにする:不安やストレスによる原始反射の再活性化を防ぐため、まず迷走神経を介した安心モードを確立する
  • 穏やかな反復運動:反射の統合には「特定の運動パターンをゆっくり繰り返す」ことが有効。JINENのスローモーションワーク(029参照)は、この観点からも意味がある

「姿勢が悪い」のではない。姿勢の背後にある「まだ統合されていないプログラム」がある。 その土台を整えることで、姿勢は意識しなくても自然に変わっていくのです。

補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。

参考文献


  1. Zafeiriou, D. I. (2004). Primitive reflexes and postural reactions in the neurodevelopmental examination. Pediatric Neurology, 31(1), 1–8.↩︎

  2. Goddard Blythe, S. (2005). Reflexes, Learning and Behavior: A Window into the Child's Mind. Fern Ridge Press.↩︎

  3. Capute, A. J. et al. (1984). Primitive reflex profile: A quantitation of primitive reflexes in infancy. Developmental Medicine & Child Neurology, 26(3), 375–383.↩︎

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