【025】「わける」の神経生理学 ― 相反神経支配と筋膜の滑走

Mar 31, 2026

「力を抜いて」が難しい本当の理由

「もっと力を抜いて動いてください」、武道、スポーツ、ヨガやピラティス、ダンスのレッスンでよく聞くフレーズです。でも、言われた通りにできる人はほとんどいません。

なぜなら、多くの人の体は隣り合う筋肉が一緒に動いてしまう癒着状態にあるからです。肩を動かそうとすると首まで一緒に動く。股関節を使いたいのに腰が先に動く。パーツが「わかれていない」状態では、力の抜きようがありません。

JINENボディワークでは、この「わける」ワークを非常に重視しています。

相反神経支配:筋肉の「わける」メカニズム

私たちの体には、「相反神経支配(reciprocal inhibition)」という仕組みが備わっています。

ある筋肉が収縮するとき、その反対側の筋肉(拮抗筋)は自動的に弛緩する。たとえば、上腕二頭筋(力こぶ)を縮めるとき、反対側の上腕三頭筋は反射的にゆるむ。この仕組みにより、スムーズで効率的な動きが可能になります。

しかし、慢性的な緊張があると、この相互抑制の仕組みが機能不全に陥ります。本来ゆるむべき拮抗筋が一緒に収縮してしまう「共収縮(co-contraction)」が起き、動きがぎこちなくなり、余計なエネルギーを消費します。

筋膜の滑走:もうひとつの「わける」

筋肉だけでなく、筋膜の滑走性も「わける」に深く関わっています。

筋膜の研究から、筋膜の層と層の間にはヒアルロン酸が潤滑剤として存在し、層どうしがスムーズに滑ることで動きの自由度が保たれていることが明らかになっています [1]。しかし、動かない状態が続くとヒアルロン酸の粘度が上がり(チキソトロピーという性質)、筋膜層の滑りが悪くなります。これが「筋膜の癒着(densification)」と呼ばれる状態であり、隣り合う筋肉が一塊のように動いてしまう原因のひとつです。

JINENの「わける」ワーク

JINENボディワークの「わける」ワークは、この2つのメカニズムにアプローチします。

  • 微細な分離運動:肩甲骨と上腕を別々に動かす、背骨を一椎ずつ動かす。こうした「わける」動きが、相反神経支配を再活性化し、不要な共収縮を解消する
  • ゆっくりとした動き:速い動きでは筋膜の滑走を感じ取れない。ゆっくり動くことで筋膜層間の滑りを回復させる
  • 感覚へのフォーカス:「動かす」のではなく「わかれる感覚を感じる」ことに注意を向ける。これにより固有受容覚が精密になり、脳のボディマップが更新される

「わける」ことで初めて「つなげる」ことができる。 バラバラのパーツが機能的につながっている状態こそが、力みのない動きの前提条件です。

補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。

参考文献


  1. Stecco, C. et al. (2011). Hyaluronan within fascia in the etiology of myofascial pain. Surgical and Radiologic Anatomy, 33(10), 891–896.↩︎

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