上が力み、下が抜ける「逆さま」の体
肩に力が入りやすい。首が常に張っている。その一方で、下半身はフニャフニャで踏ん張れない。足が地面に着いている感覚が薄い。
現代人に非常に多いこのパターンを、JINENボディワークでは「上実下虚(じょうじつかきょ)」と呼びます。上半身に力が詰まり(実)、下半身が力を失っている(虚)状態です。
理想はこの逆、「上虚下実」。上半身はゆるやかに力が抜け(虚)、下半身がどっしりと安定している(実)状態です。
これは東洋的な概念に聞こえるかもしれませんが、実は自律神経の科学との接点が明確にあります。
姿勢が自律神経を変える
身体構造と自律神経の関係を調べた研究から、骨盤の傾斜角度を修正する軟部組織ワークが、副交感神経(迷走神経)の活動を有意に増加させることが実証されています [1]。
つまり、下半身(骨盤)の構造を整えることが、自律神経のバランスを直接変えるのです。
この研究で注目すべきは、共著者にポリヴェーガル理論の提唱者(S.W. Porges)が含まれていることです。姿勢と自律神経をつなぐ生理学的な経路として、迷走神経の機能が重要な役割を果たしていることが示唆されています。
なぜ「上」が力むと自律神経が乱れるのか
上虚下実の逆、上実下虚の姿勢が自律神経を乱すメカニズムは、以下のように理解できます。
① 呼吸が浅くなる
上半身に力みがあると、胸郭と横隔膜の動きが制限され、呼吸が浅くなります。浅い呼吸は迷走神経ブレーキの作動を弱め(010参照)、交感神経優位の状態を作り出します。
② 迷走神経が圧迫される
頸部(首)の過緊張は、そこを通過する迷走神経を物理的に圧迫する可能性があります。迷走神経の信号伝達が妨げられれば、安心モードへの切り替えが難しくなります。
③ 足裏の情報が届かない
下半身が「虚」の状態では、足裏のセンサーからの情報(014参照)が不十分になり、脳の姿勢制御プログラムが不安定になります。不安定さを補うために、上半身の筋肉をさらに固めるという悪循環が生まれます。
JINENの「上虚下実」のワーク
JINENボディワークでは、上虚下実の回復を以下の順番で行います。
Step 1:まず上を「抜く」
上半身の力みを解放する。首・肩・胸郭のリリース。呼吸の回復。ここで大切なのは、「力を抜け」と指示するのではなく、呼吸法や迷走神経刺激を通じて神経系そのものを安全モードに切り替えること。安全モードに入れば、上半身の過緊張は自然にゆるんでいきます。
Step 2:次に下を「満たす」
足裏の感覚を目覚めさせ、股関節の安定を取り戻し、骨盤を「器」として機能させる。地面との関係を体で感じ直すことで、下半身に「実」が戻ってきます。
Step 3:つなげる
上が抜け、下が満ちた状態で、全身の張力ネットワークをつなげ直す。上虚下実が自然な状態として定着する。
上を軽くし、下を重くする。 それだけで呼吸は深まり、自律神経は安定し、心身は大きく変化し始めるのです。
補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
参考文献
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Cottingham, J. T., Porges, S. W. & Richmond, K. (1988). Shifts in pelvic inclination angle and parasympathetic tone produced by Rolfing soft tissue manipulation. Physical Therapy, 68(9), 1364–1370.↩︎