【021】筋肉で固めず、張力で立つ ― テンセグリティという構造原理

Mar 30, 2026

体は「柱」で立っているのか

多くの人は、骨格を「ビルの柱」のようなものだと思っています。骨が積み木のように積み上がっていて、筋肉でそれを支えている、と。

もしこのイメージが正しいなら、良い姿勢とは「柱をまっすぐに積み上げて、筋肉でそれを固定すること」になります。体幹を鍛え、背筋を固め、骨を正しい位置に保つ。いわゆる「体幹トレーニング」の発想に近いかもしれません。

しかし、人体の構造をよく観察すると、このモデルには無理があることが分かります。骨と骨は直接積み上がっていません。間に軟骨、靱帯、筋膜、筋肉が介在し、骨は筋膜のネットワークの中に浮かんでいるような状態です。

テンセグリティ:張力で安定する構造

生物学・建築学の分野で、生命体の構造原理として「テンセグリティ(tensegrity = tensional integrity)」という概念が提唱されています [1]

テンセグリティとは、連続する張力(テンション)と、局所的な圧縮(コンプレッション)のバランスによって安定する構造のことです。

  • 圧縮材(ストラット)=骨:力を押し返す硬い部材。互いに接触していない
  • 張力材(ケーブル)=筋膜・靱帯・筋の張力ネットワーク:全体にわたって張力を分配する

この構造の特徴は、圧縮材どうしが直接積み重なっていないことです。骨は筋膜の張力ネットワークの中に「浮いて」おり、張力の均衡によって全体の形が保たれています。

テンセグリティが意味すること

このモデルは、人体の姿勢制御について非常に重要な示唆を与えてくれます。

① 局所ではなく全体で支える
テンセグリティ構造では、ひとつの点に加えた力は構造全体に分散されます。「肩が凝っている」のは肩だけの問題ではなく、全身の張力バランスが崩れた結果として肩に負荷が集中している可能性がある。

②「固める」と壊れる
この構造は、張力の連続性によって安定しています。一部を硬く固めると、張力の流れが止まり、そこに力が集中して故障のリスクが上がります。「体幹を固める」姿勢は、テンセグリティの原理に反しています。

③ しなやかさが強さ
テンセグリティ構造は外力に対して「たわむ」ことで衝撃を吸収します。固い構造は折れますが、しなやかな張力構造は変形して復元します。これが、JINENが「固めず、しなやかに」と繰り返す理由です。

JINENの姿勢観:「固めない」構造

JINENボディワークが「筋肉を固めて支える」姿勢観を否定するのは、テンセグリティの原理に近い考えを持っているためです。

実際に、ボディワークや手技療法の分野では、筋膜の連続的なつながり(「筋膜経線」)を体系化した研究があり、個々の筋肉を独立して見るのではなく、全身にわたる筋膜のラインとして捉えることで、離れた部位の痛みや機能障害を統合的に理解できることが示されています [2]

  • 筋膜のつながり(筋膜経線)を重視し、全身の張力バランスを整える
  • 「固める」トレーニングではなく、「つなげる」ワークで張力の連続性を回復する
  • 骨を「積む」のではなく「浮かせる」感覚を養い、不要な筋緊張を手放す

体を支えているのは筋力ではなく、張力のネットワーク。そのネットワークが自然に機能すれば、力まなくても、がんばらなくても、体は軽やかに立っていられるのです。

テンセグリティと人体の結びつきは、まだ今後の研究が待たれる段階だとは思われます。
しかし、本来の人体の構造は、頑強な建築物の人体イメージとは異なり、もっと複雑で有機的なものだと考えています。
私の経験からも共通点があると考え、テンセグリティの理論も紹介いたしました。

補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。

参考文献


  1. Ingber, D. E. (1998). The architecture of life. Scientific American, 278(1), 48–57.↩︎

  2. Myers, T. W. (2009). Anatomy Trains: Myofascial Meridians for Manual and Movement Therapists (2nd ed.). Churchill Livingstone.↩︎

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