【005】自律神経は「2つ」ではなく「3つ」 ― 凍りつきという第三のモード

Mar 30, 2026

「リラックスしているのに調子が悪い」の謎

「ずっと家にいるのに疲れが取れない」「やる気が出ない」「体がだるくて動けない」、。一見リラックスしているように見えるのに、全然元気にならない。この不思議な不調を経験したことがある方は多いのではないでしょうか。

一般的に自律神経は「交感神経(アクセル)」と「副交感神経(ブレーキ)」の2つで説明されます。交感神経が優位だと興奮・緊張し、副交感神経が優位だとリラックスする、と。

でも、もしそれが正しいなら、家でゴロゴロしている(=副交感神経が優位なはず)のに元気が出ないのは、おかしな話です。

3つ目のモード「凍りつき」

自律神経の科学では、自律神経系を進化の歴史に基づいた3つの階層で捉える理論が提唱されています [1][2]。この理論によれば、私たちの神経系には2つではなく3つのモードがあります。

① 腹側迷走神経モード(安心・つながり)
最も新しく進化した回路。安全を感じているときに働き、表情が柔らかくなり、声にも抑揚が出て、人とつながることができる状態です。これが本当の意味での「リラックス」です。

② 交感神経モード(闘争・逃走)
脅威を感じたとき、戦うか逃げるかの態勢を取るモード。心拍が上がり、筋肉が緊張し、呼吸が浅くなります。いわゆる「過緊張」の状態です。

③ 背側迷走神経モード(凍りつき・シャットダウン)
最も古い防衛反応。脅威があまりにも大きく、戦うことも逃げることもできないとき、体はシステムごとシャットダウンします。エネルギーを極限まで温存する「凍りつき」モードです。

「副交感神経=良い」ではない

ここで重要なのは、③の背側迷走神経も「副交感神経」の一種だということです。つまり、副交感神経が優位でも、それが「凍りつき」モードであれば、体は回復どころかシャットダウン状態にある。

「やる気が出ない」「体がだるい」「感情が麻痺したような感覚」「引きこもりたい」、。これらは、ブレーキを踏んでいるのではなく、ブレーカーが落ちている状態です。一見穏やかに見えますが、実は最も深い防衛反応が作動しているのです。

この3層構造を理解すると、「リラックス=副交感神経優位でいればいい」という従来の常識がいかに不十分かが分かります。大切なのは、副交感神経の中でも腹側(安心)の回路をオンにすることです。

JINENが「安心モード」を最優先にする理由

JINENボディワークのすべてのプログラムは、まず腹側迷走神経(安心モード)を起動させることから始まります。

この理論を臨床応用した研究では、神経系の状態を「マッピング」し、いま自分がどのモードにいるかを自覚させ、安全な関係性(共同調整)を通じて腹側モードへ移行させるアプローチが体系化されています [3]

JINENでは、これを具体的な身体ワークに落とし込んでいます。呼吸をゆっくり整える(迷走神経を刺激する)、胸鎖乳突筋まわりをゆるめる(迷走神経の圧迫を解放する)、耳を触る(迷走神経耳枝を刺激する)、。いずれも、腹側迷走神経を選択的に活性化し、体に「安全信号」を送るためのアプローチです。

防衛モード(②交感神経)や凍りつきモード(③背側迷走神経)のまま運動やストレッチを加えても、体は本当の意味で回復しません。まず安心モード(①腹側迷走神経)に切り替えてから、次のステップに進む。

この順番を守ることが、すべての土台なのです。

補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。

参考文献


  1. Porges, S. W. (1995). Orienting in a defensive world: Mammalian modifications of our evolutionary heritage. A Polyvagal Theory. Psychophysiology, 32(4), 301–318.↩︎

  2. Porges, S. W. (2007). The polyvagal perspective. Biological Psychology, 74(2), 116–143.↩︎

  3. Dana, D. (2018). The Polyvagal Theory in Therapy: Engaging the Rhythm of Regulation. W. W. Norton & Company.↩︎

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