CORE THEORY

シリーズ|体の地図を書き換える ― 身体図式と運動制御の科学

脳は予測マシンである

Part 8 / 10

私たちは普段、「目や耳で外界の情報を受け取って、それに反応している」と感じています。しかし現代の神経科学は、まったく逆のことを示しています。脳はほとんどの時間、外界を「予測」しているのです。

予測符号化理論

脳は常に環境や自分の体に関する内的モデルを構築し、高次の階層から低次の階層へ向けて「予測」を送信しています。感覚器官から実際に入ってきた信号と予測を比較し、ズレがあればそれを「予測誤差」として高次にフィードバックします。

たとえば、いつも通る道を歩いているとき、脳はすでに「次の角を曲がったら公園がある」と予測しています。

もし公園がなくなっていたら、そこに大きな予測誤差が生まれ、「あれ?」という驚きとともに脳がモデルを更新します。

脳がやっていることの本質は、この予測誤差を最小化することです。モデルを更新する(学習する)か、行動を起こして現実を予測に合わせるか、どちらかで誤差を消します。

能動的推論 ― 運動は予測を実現するプロセス

カール・フリストンらが提唱した「能動的推論」という考え方では、運動をこう定義します。

運動とは、自分の体の状態に関する強力な予測を実現するために、予測誤差を最小化するように筋肉を収縮させるプロセスです。

たとえば「コップを掴む」という予測を脳が立てると、その予測を実現するように手が動きます。

このとき、自分が生み出した運動に伴う感覚は完全に予測可能なので、脳はその感覚を意図的に弱めます(感覚減弱)。だから自分の動きは努力感なくスムーズに感じられるのです。

身体図式と予測の質

ここで体の地図との関係が見えてきます。身体図式が正確であれば、脳の予測も正確になります。予測と実際の感覚が一致するので、予測誤差は小さく、体はスムーズに動きます。

逆に、体の地図がぼやけていると、予測の精度が落ちます。動くたびに予測と現実のズレが生じ、脳は「何かがおかしい」という信号を受け取り続けます。この慢性的な予測誤差が、体と心にどんな影響を与えるかを次回詳しく見ていきます。

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次回は、「見えない不安の正体」を予測誤差の観点から解き明かします。

参考文献

  • 29. Predictive coding and neurocomputational psychiatry: a mechanistic framework for understanding mental disorders - PMC. PMC12819327
  • 30. Predictive coding - Wikipedia. Wikipedia
  • 32. Predictive Coding: Why Our Brain Is Constantly Predicting The Future. YouTube
  • 33. Neurocomputational Mechanisms of Sense of Agency. *Brain Sciences*. MDPI

この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。

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