「深呼吸して」で本当に変わるのか
緊張しているとき、「深呼吸してリラックスしよう」とよく言われます。確かに深呼吸をすると少し楽になる気がする。でも、それは気のせいなのか、それとも体の中で本当に何かが変わっているのか、。
結論から言うと、本当に変わっています。 ただし、そのためには「呼吸の仕方」にポイントがあります。
呼吸と心臓の不思議な関係
私たちが息を吸うとき、心拍数はわずかに速くなります。息を吐くとき、心拍数はわずかに遅くなります。この呼吸に連動した心拍の揺らぎは「呼吸性洞性不整脈(RSA: Respiratory Sinus Arrhythmia)」と呼ばれ、迷走神経の活動を反映する重要な生理指標です。
自律神経科学の研究から、このRSAのメカニズムは次のように理解されています [1]:
- 吸気:交感神経がやや優位に → 心拍が上がる
- 呼気:迷走神経が活性化(=ブレーキが作動) → 心拍が下がる
つまり、呼気のたびに迷走神経ブレーキが踏まれているのです。だから、吐く時間を長くすれば、それだけ多くの時間ブレーキを踏んでいることになります。
「毎分6回」の呼吸が最強な理由
呼吸生理学の研究から、ゆっくりとした呼吸が迷走神経を活性化し、心拍変動(HRV)を増加させ、リラックス状態を示す脳波パターンを誘導することが系統的に確認されています [2]。
中でも、最も効果的なペースが毎分約6回(1呼吸あたり約10秒) であることが分かっています。このペースでは、呼吸のリズムが心血管系の自然な共鳴周波数と一致し、迷走神経ブレーキの効果が最大化されるのです [3]。
さらに興味深いことに、古くからの瞑想的実践、ロザリオの祈りやヨガのマントラ、も、唱えている間は自然と毎分約6回の呼吸ペースになり、心血管リズムの同期をもたらすことが報告されています [4]。宗教や文化を超えて、人類は何千年も前から「最適な呼吸ペース」を体験的に発見していたのかもしれません。
JINENの呼吸ワーク:「吸うを控え、吐くを伸ばす」
JINENボディワークの呼吸アプローチは、この神経生理学的メカニズムに基づいています。
ポイントは3つです:
① 吐くことを優先する
「たくさん吸おう」とするのではなく、「ゆっくり長く吐く」ことに意識を向けます。吐く行為そのものが迷走神経ブレーキのスイッチだからです。
② 頑張って呼吸しない
深呼吸を頑張ると、かえって交感神経が活性化します。JINENでは「呼吸を『する』のではなく、呼吸が『起きるのを感じる』」という姿勢を大切にします。力まず、自然に、ゆっくり。
③ 身体ワークの前に必ず行う
呼吸ワークは「おまけ」ではなく、すべてのボディワークの前提条件です。迷走神経ブレーキを踏んで神経系を安全モードに切り替えてから、初めて体を動かすワークに進みます。順番を間違えると、防衛モードのまま運動することになり、代償動作を強化してしまいます。
呼吸は、もっとも手軽で、もっとも強力な、神経系のコントロールスイッチ。
息を吐くたびに、あなたの体は静かに安全へと向かっています。
補足
この記事は、読者の方々の個人的な実践や学習のヒントとなる研究を紹介する目的で制作したものです。効果を保証するものではありません。また、エビデンスは最新の研究によって覆される場合や、賛否があるものもあります。学習や実践の参考程度にしてください。
参考文献
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Porges, S. W. (2007). The polyvagal perspective. Biological Psychology, 74(2), 116–143.↩︎
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Zaccaro, A. et al. (2018). How breath-control can change your life: a systematic review on psycho-physiological correlates of slow breathing. Frontiers in Human Neuroscience, 12, 353.↩︎
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Lehrer, P. M. & Gevirtz, R. (2014). Heart rate variability biofeedback: How and why does it work? Frontiers in Psychology, 5, 756.↩︎
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Bernardi, L. et al. (2001). Effect of rosary prayer and yoga mantras on autonomic cardiovascular rhythms: comparative study. BMJ, 323(7327), 1446–1449.↩︎